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モンド氏の失踪|ジョルジュ・シムノン

ひさしぶりにジョルジュ・シムノン氏の作品をよみましたが、やっぱりいいですね。読んだのは1954年に発表された「モンド氏の失踪 【シムノン本格小説選】」という作品で、社会規範からの逸脱者を疑似体験することができます。
ジョルジュ・シムノン氏の作品のいいところは、それなりに年齢を重ねた人間を主人公にしているところです。ご本人がこう言っています。

恋人たちが結婚したところで、めでたし、めでたしと終わりにするのでもなく、また二人がうんざりしはじめたところから結末にするというのでもありません。私たちはとことんまで追求するのです。


メグレ警部シリーズはまったくよんでいなくて、ジョルジュ・シムノン氏自身が「ロマン・ロマン」と呼んでいるものしか読みませんが、よけいなものがきれいに洗い流されていて、短い期間を扱った物語のはずが、読み終わってみると、登場人物のことが、過去のことまで、立体的に把握できてしまっています。ヴァランタン=ルイ=ジョルジュ=ウジェーヌ=マルセル・プルースト氏の回想技術を、ドラマに必要なものだけにしぼって、利用しているような印象をうけました。

ほんとうにこれといった筋はないので、そのあたりはギュスターヴ・フローベール氏の系譜の線上にいるのだと思いますが、筋のかわりに「どこへたどり着くのかわからない」というサスペンスで、読者を最後までひきつけています。ギュスターヴ・フローベール氏の系譜の線上ということは、オノレ・ド・バルザック氏の系譜の線上にいるということです。細かな事物に焦点をあてます。その効果によって、ジョルジュ・シムノン氏の小説世界が、おそろしいまでに立体化されています。

しかし本当の画家――たとえばセザンヌのリンゴは重さをもっています。しかもそれはわずか三度の筆の動きによって果汁から何からそなえています。セザンヌの筆触がそのリンゴにあたえたような、まさにそのような重さを、私は自分の言葉に、あたえようと努めたのです。


こういった印象主義の感覚をから生まれた描写技術が圧倒的なので、きちんと書かれた小説が退屈に感じてしまうほどの、読みやすさに仕上がっています。一文一文が、一筆一筆に対応しているので、物語全体を感覚でうけとめることのできる魅力的な作家です。